なぜあのとき、通訳などと言ったのか、自分では良く解りませんでした。
なんとなく、そう思ったのです。徹夜ハイだし。
最近になって、恒星占星術で、パランの水星の意味を見たら
「二つの言語、または領域の橋渡しをする」と、なっていました……。
お星様には勝てません……。
ともあれ、大学2年の4月から、今にして思えば、ファナティックというか、エキセントリックな、この学校に通うことに決めました。
この東京松本英語専門学校というのは、
松本亨という戦後NHKのラジオ講座で有名だった方が始めた学校で、
親の世代なら、誰でも名前を知っているような方でした。
私が通い始めたころには他界されていて、当時は
その弟子の方が、学校を運営していました。
授業は週3日。
月水金、夜の6時半~9時だったと思います。
月曜と水曜は、50人くらいの大人数の授業で、文法とかショートスキットとか、松本亨の10冊くらいある英作文の本を覚えるとか、そんな内容だったと思いますが、よく覚えていません。多分あまり身になってなかったんでしょう。
一番インパクトのあったのは金曜日でした。
金曜日は小さい班(グループというより、「班」!)に別れて、
日本人の先生がつきます。
1班は6人くらいです。
この学校、ネイティブの教師がほとんどいなくて、先生がみんなこの学校の出身者の日本人なのです。熱い人たち。平成には、ほとんど死に絶えた種族。
金曜日の課題は、
松本亨が書いたVisitorという戯曲があって、それを毎週1チャプターずつ覚えるのです。たしか新書版くらいの本の左側が会話文で右側に日本語訳がついていました。
内容は、それまで連絡もしたことがなかった遠縁を頼って
日本から男の子がアメリカに行って、神学校に行こうとするんですが、
その遠縁の女の子と恋に落ちる話。
覚えて行くと、それを次の週に先生が、個別にチェックします。
You are perspiring all over.
という文がそのチャプターにあったとすると、
先生が
You
と、キューを出したら、続けてその文を噛まないでスラスラ言えるようにしておきます。
そのチャプターのどの文でも言えるようにしておかないといけません。
言えないとF(fail, 失格)です。
で、授業料は最初に一括で払うのですが、Fだと即、退学なんです。
お金返してくれません。今なら法的にひっかかりますね……きっと。
猶予なし。
覚えるのには「テープを100回聞け」と、言われました。
ウォークマンとラジカセを駆使し、お風呂に入っているときも外でループで流し続けました。そうでないと1週間に100回は聞けないのです。
100回はなかなか聞けません。70回~80回くらいが良いところです。
そのくらい聞くと、吐きそうにはなりますが、口をついて出てくるようになります。
コマーシャルをいつのまにか口にしていたりするでしょう。あれです。
自分で覚えているかどうかは、テープに録音して確認しました。
わたしはしつこいので、発音もテープと同じように言えるまで、1語1語、リンキング(語の繫がり方)もテープと同じようになるまで、アクセントも同じようになるまで、ダブル・カセットでガシャンガシャン、壊れそうになるくらい録音して、もとのテープと聞き比べました。
リンキングというのは、Is your〜を読むと繋がって、イジュオのようになったり、
Look at it が ルッカティッtのようになって、一つの言葉のように聞こえる繋がり方のことです。
ああ、アナログは便利だったな……。ちょっとだけ巻き戻せるし。
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宿題をやっていかないと、ほんとに退学になるのかな?と、ちょっと思いましたが、
実際、早々に退学になった男の子がいました。
彼は、驚くなかれ、いつも月水金に宮益坂のファーストキッチンの同じ窓際の席に
夜の6時半から9時まで座っていました。律儀すぎる……。
このあいだ久しぶりに宮益坂を通ったら、
まだ同じところにファーストキッチンがありましたが、彼は、もう座ってませんでした。
あたりまえですが……。
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このVisitorを一学期の間、どんどん覚えていきます。
いやでも自分の中に表現が溜まっていくわけです。
そして、校内に入るときには、日本語を話すと罰金が1000円なので、
まずは、日本人同士でもHi!と言わねばならず、
How’s going?とHow are you?が同じ意味だとか、だんだん覚えます。
学校に入る前は、ちょっとテンションをあげて、人格変える感じです。
日本語から英語へのモードチェンジをするのです。
そして、1学期の終わり頃、これも「恥ずかしい」のを払拭するために、全員の前でスピーチコンテストがあります。
たしか賞品とか賞金が出たような……。
もう忘れましたけど。
ブロークンでもなんでも、とにかく覚えるのが大事、話すのが大事、なのでした。
つづく。
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